第76回カンヌ国際映画際 監督週間 / 第71回サン・セバスティアン国際映画祭 サバルテギ=タバカレラ部門 / ストックホルム国際映画祭 2023 最優秀撮影賞
第47回サンパウロ国際映画祭 新人監督部門 / 第64回テッサロニキ国際映画祭 コンペティション部門 / リスボン&エストリル映画祭 2023 コンペティション部門
第41回トリノ映画祭 コンペティション部門 / Auteur Film Festival 2023 最優秀監督賞

監督・脚本:イリヤ・ポヴォロツキー 撮影:ニコライ・ゼルドビッチ 音楽:ザーカス・テプラ 出演:マリア・ルキャノヴァ、ゲラ・チタヴァ、エルダル・サフィカノフ、クセニャ・クテポワ
原題:Блажь | Blazh 日本語字幕:後藤美奈  配給:TWENTY FIRST CITY 配給協力:クレプスキュール フィルム [2023年 ⁄ ロシア ⁄ ロシア語、ジョージア語、バルカル語 ⁄ 119分 ⁄ カラー ⁄ ヨーロピアンビスタ]

剥き出しの大地を舞台に描く、小さくも揺ぎない抵抗の奇跡

2023年カンヌ国際映画祭が唯一認めたロシア映画

ロシア南⻄部の辺境、乾いた風が吹きつけるコーカサスの険しい山道。無愛想な目をした16歳の娘と寡黙な父親。二人は移動映画館で野外上映をし、ポルノ映画の海賊版DVDを若者に密売しながら、錆びた赤いバンで北に向かって旅をしている。母親の不在が二人の緊張した関係に影を落とし、車内には重苦しい沈黙が漂っている。延々と続く荒涼とした風景と、そこで生きる人々との束の間の出会い。やがて辿り着くのは世界の果てのような荒廃した海辺の町。 娘は先の見えない放浪生活から抜け出すためにある行動に出るが…
2023年のカンヌ国際映画祭で上映された唯一のロシア映画として大きな反響を呼んだ本作。ソ連崩壊後から時間が止まったようなロシア辺境の停滞と不穏を背景に、思春期の不安を抱える少女の成⻑を追ったロードムービーである。 東欧の⺠話をもとにドキュメンタリー出身のロシアの俊英イリヤ・ポヴォロツキーが監督した。この映画が撮影されたのはロシアによるウクライナへの軍事侵攻が本格化する少し前の2021年秋。直接的な描写はないが、映像の至る所に政治的な雲行きの悪さが感じられる。母親も友人もいない。自分を守る家も法もない。生ぬるい共感や哀れみに一切なびくことなく、彼女はただやり場のない感情を沸々と溜め込んでいく。剥き出しのロシアの大地を舞台にした小さくも揺るぎない抵抗の軌跡は、私たちにあっけないほど美しい余韻を残すだろう。

憂鬱と魅惑に満ちたロシア辺境、ひとりの少女が旅に出て大人になる───

荒涼とした岩山に流れる小川のほとり。10代半ばの少女が身体を震わせながら下着の汚れを落としている。彼女が戻った先には老朽化した赤いキャンピングカーが止まっている。その中から出てきた見知らぬ女が少女に生理用品を渡し、そのままどこかへ去っていく。続いて出てき たのは少女の父親。少女は父親に嫌悪の一瞥をくれる。少女は「海に行きたい」とだけ呟いて車に乗り込む。
親子は赤いバンでロシア辺境を南から北へ縦断する旅を続けているようだ。移動映画館と海賊版DVDの販売でどうにか日銭を稼ぐ毎日。長旅に欠かせないガソリンは闇市から違法に仕入れる。少女は一体いつまでこの放浪生活を続けなければならないのか。思春期の彼女は父親への反抗心を日々募らせている。
親子の旅路には実に多様な風景が広がり、そこには独自の文化、言語、宗教を持つ人々がひっそりと逞しく暮らしている。少女は旅の唯一の愉しみであるポラロイドカメラでそんな風景と人々のポートレートを撮影する。
ある日、立ち寄った小さな村落でいつものように野外上映を催す親子。どこからともなく地元の住民が集まり、上映される映画を一心に見入る。スクリーンの設営を手伝った一人の少年。何もない小さな村で鬱屈とした生活を送る彼の目には、旅を続ける親子は自由を謳歌している ように見える。翌日、村から離れる親子のあとを彼はバイクで追いかける…

近年で最も衝撃的な⻑編デビュー作のひとつ。
───  International Cinephile Society
ヴィム・ヴェンダース初期作のような哀愁の旅。
───  Télérama
タルコフスキーを彷彿とさせる映像美。
───  Cahiers du Cinéma
疎外され、暴力的で、泥沼化し、漂流する現代ロシアの肖像。
───  Caiman Cuadernos de Cine
眩いダイヤの原石のような映画。スクリーンの全領域を捉え、かつてないほどそこに確かに存在し、見る者の眼差しを若返らせる。
───   Le Monde
世代間の緊張と⻘春の物語を独創的に描いた傑作。
───   Screen Daily
ソ連というひとつの文明が終わった後の世界。峻厳な自然の広がりにかろうじて残っている道を、ぼろぼろのバンでよろよろと進んでいく父と娘。タルコフスキーやソクーロフが描いてきたあの永遠のように停滞する時間が、ひとに重くのしかかる。原題のблажьは愚かな気まぐれを意味する。貧しくも圧倒的に美しい風景のなか、人間のいとなみはあまりにも取るに足りない。それでも生きている。
───  上田洋子 (ゲンロン代表、ロシア文学・演劇研究者)

 

 

ヴィム・ヴェンダースと青山真治をふたたび出会わせたこのロシア製ロードムービーは、『PERFECT DAYS』のありえたかもしれないもうひとつの道程を見せている。
───  阿部和重 (作家)

 

 

暴力、怒りの波紋が音楽となって赤い車に引きづられている。親子にとって旅は仕事であり、漂流することは日常である。杭を打つようにポラロイドカメラで今を記録する彼女の眼差し。誰もが少年少女の時感じていた引き伸ばされた時間に身を置く119分。
───  甫木元空 (映画監督、ミュージシャン)

 

 

果てしない広野に感じるのは自由ではない。退屈と侘しさは喉を詰まらせ、次第に沈黙と化してゆく。私も、名前も知らない彼らと同じようにどこかに行きたいと願っていたのだろう。約2時間、鼻の奥を刺す寒さと、夜明けのにおいを憶えた。
───  中島セナ (モデル、俳優)

 

 

ロシアの地方を旅すると本作のような景色をよく目にする。歴史が停止したような街と、ひっそりと生きる人々。それは絢爛なモスクワやサンクトペテルブルグとは真逆の景色だ。父と旅する少女は、そんな記憶喪失したような景色を写真に撮り続ける。忘れたくない光景があることが、いつか希望になると信じるかのように。ロシアはいつも無愛想だが、時折こんな繊細な映像が生みだすから、つくづく世界はわからないと思う。
───   佐藤健寿 (写真家)

 

 

『ミツバチのささやき』を観た時、流浪の映写技師の人生に触れたくなった。そしてコーカサスで出会った。しかしそこには、どこへでも行けそうでどこにも行けない者の肖像が茫と浮かび上がり、切なさが心を掠めたのであった。
───   che bunbun (映画ライター)

 

 

親子二人の暮らすバンは、周囲に広がる荒野や寂れた建物と同じ、二人だけの”廃墟”である。”廃墟”から逃れようともがく者も、そこに留まることを選ぶ者も登場し、二人は彼らを前に迷い続ける。映画はそんな二人の選択をそっと包み込む。
───  Knights of Odessa (東欧映画愛好家)

 

 

旅するふたりを迎えるのは、かつて見たことのない風景の数々と、さまざまな言語を話す人々。都市とは種類が違う、とはいえ同じ社会機構のもとにある憂鬱。それは人類文明のはかなさと、それでもそこで生活を営む命の両方を際立たせる。自分はロシアとその周辺のことをいかに知らないか痛感させられた。
───  野中モモ (翻訳者、ライター)

 

 

コーカサスの終わりのない風景を進む赤い車。今年も夏は来ない。海はあまりにも遠すぎる。父と娘にとって移動映画館は稼ぎの手段でしかない。少女は夢の跡の世界で最後のステップを踏む。この傑作には私たちが映画を見る理由がある!
───  宮代大嗣 (映画批評)

 

 

ロシアの新鋭監督が、誰も見たことのない世界を見せてくれる。コーカサスの辺境から北極圏の海へ。見慣れない風景の中をオンボロ自動車が走り、思春期の少女が成長していく。はるかな魂の辺境を突っ切っていくようなロードムービーだ。ここには戦争の予兆のような不穏な気分と旅が切り開く未知の世界への微かな期待がないまぜになって、恩寵のように漂っている。
───  沼野充義 (ロシア文学者、東京大学名誉教授)
 
この映画を見ながら、アニエス・ヴァルダの『冬の旅』を思い出した。粒子の粗い画面にはどこまでも続く荒れ果てた土地が映り、その土地土地を旅する若い女がいる。彼女はたいてい仏頂面で、くすんだ画面に、染みのようにじっとしがみついている。
───  月永理絵(ライター・編集者)

 

 

車に閉じこもり、刹那に活きる父親と、新しい人生を歩み出す娘。ロシアのフロンティアを巡るこの映画は、戦争の始まる前に、どこかでこの30年を振り返っているようにも思える。監督の心の中のドキュメンタリーともいえるだろか。
───  前田弘毅(東京都立大学人文社会学部教授)

 

 

敬称略・順不同

監督・脚本 : イリヤ・ポヴォロツキー
Ilya Povolotsky

1987年、ロシア・イジェフスク生まれ。
大学で法律を学び、卒業後すぐに制作会社Black Chamberを設立。映画の製作資金を調達するためにコマーシャルの製作を開始する。2017年にロシア最北⻄のコラ半島に生きる人々の日常を描いた30分のドキュメンタリー『Northerners』を製作、続いて 2019年に、同じくコラ半島を舞台にした長編ドキュメンタリー『Froth』を製作し、アムステルダム国際ドキュメンタリー映画際での受賞をはじめ数多くの映画祭で上映された。新作の『Mud』はコーカサス地方の公衆浴場を舞台にしたモノクロのドキュメンタリーで、テッサロニキ国際ドキュメンタリー映画祭などに選出された。現在はパリに拠点を移し、活動続けている。

 

 

 

撮影 : ニコライ・ゼルドビッチ
Nikolay Zheludovich

1986年、ベラルーシ・モギリョフ生まれ。ベラルーシ芸術アカデミー、 Moscow School of New Cinemaで映画撮影を学ぶ。Anna Melikyan 監督による『Three』(2020)で Kinotavr Film Festivalの最優秀撮影賞を受賞。本作『グレース』にて、2023年ストックホルム国際映画祭の最優秀撮影賞を受賞。イリヤ・ポヴォロツキーとは新作『Mud』でもタッグを組んでいる。

 

音楽 : ザーカス・テプラ
Zurkas Tepla

ロシア出身で現在はロンドンに拠点を置いて活動する実験音楽家。インディペンデント音楽レーベル CANTの創設者。アンビエント、ノイズ、インダストリアルなどを組み合わせた、多様で予測不可能な サウンドスケープで多くのファンを魅了している。

 

マリア・ルキャノヴァ(娘役)
Maria Lukyanova

2004年、ロシア・モスクワ生まれ。
2022年、Moscow International Film Schoolの監督科を卒業。2024年、Moscow School of New Cinemaの演技科を卒業。今作『グレース』で映画初出演を果たす。

 

ゲラ・チタヴァ(父親役)
Gela Chitava

1978年、ジョージア、トビリシ生まれ。
2008年から俳優としてのキャリアをスタートし、ド ラマ、スリラー、犯罪などのジャンルで多様な役を演じる。代表作に、2008年カンヌ国際映 画祭出品の『Shultes』(2008年)やテレビシリーズ『Six Empty Seats』(2020年)など。

 

エルダル・サフィカノフ(少年役)
Eldar Safikanov

1995年、ロシア・サラヴァト生まれ。
主演作の『Chekago』(2022年)では麻薬取引に巻き込まれるラッパーを演じ、期待の若手俳優としてロシア国内で大きな注目を集める。

 

クセニャ・クテポワ(観測所の女性役)
Ksenia Kutepova

1971年、ロシア・モスクワ生まれ。
ロシア舞台芸術アカデミーを卒業後、40本以上の映画、ドラマに出演する。代表作にモスクワ国際映画祭金賞の『Traveling with Pets』 (2007年)など。 『戦争と女の顔』(2019年)や『ポリーナ、私を踊る』(2016年)にも助演として出演。

grace_THEATER

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劇場名TEL公開日前 売
東 京シアター・イメージフォーラム03-5766-011410/19〜
京 都京都シネマ075-353-472311/1〜
宮 城フォーラム仙台022-728-786611/1〜
鹿児島ガーデンズシネマ099-222-874611/6〜
長 野上田映劇0268-22-026911/8〜
大 阪シネ・ヌーヴォ06-6582-141611/9〜
新 潟新潟・市民映画館シネ・ウインド025-243-553011/9〜
静 岡静岡シネ・ギャラリー054-250-028311/15〜
岡 山bear’s book store086-230-051011/15〜
長 野松本シネマセレクト0263-98-492811/15〜
秋 田御成座0186-59-497411/15〜
兵 庫元町映画館078-366-263611/16〜
広 島横川シネマ082-231-100111/16〜
愛 知ナゴヤキネマ・ノイ052-734-746711/30〜
栃 木宇都宮ヒカリ座028-633-444512/6〜
千 葉キネマ旬報シアター04-7141-723812/7〜
沖 縄桜坂劇場098-860-955512/14〜